激動の中2008年も暮れようとしている。政治や経済がどのように変動しようが技術をベースにした社会変動の大きな波は確実に動いている。今年の最後に動画ビジネスの未来を予感させるサービスを紹介する。

今年の6月に静かに一つのサイトが誕生した。インターネット上でサービスされているオンデマンド動画番組情報を紹介するナビコンだ。
ナビコン株式会社代表取締役の木尾保男社長はアスキーで営業部長としてパソコン業界で辣腕をふるった後、EPGや映画情報サイトを手がけてきたが、そのノウハウを生かして6月から動画情報検索サイト、ナビコンを始めた。今後大きく広がるネット動画の世界でのナビゲータになるというコンセプトで幅広いネット動画に関する情報を整理して提供するサイトだ。
対象とする動画はGyao、Yahoo動画、ShowTime、バンダイチャンネルなど100以上のサイトをカバーし当面10万コンテンツのデータベース化を目標にしている。YouTUBEやニコニコ動画などの投稿系のものやアダルトは扱わない。ナビコンでは各動画のメタ情報をデータベース化していろいろな角度から検索ができるようにしている。ジャンルとしては映画、アニメ、ドラマ、スポーツ、バラエティから趣味、教育、観光、ショッピングと幅広い。有料のものも無料のものもある。
これまでの動画検索では投稿系のものが中心であったり、検索する範囲が自社のものだけだったり、十分にユーザーの気持ちが反映されていなかった。ナビコンでは商用サイトに絞ることでコンテンツの質を一定のレベルに保ちつつ、広範囲に動画配信サイトを網羅することでユーザーの琴線に触れるサービスとなっている。
地上波のテレビがデジタル化されるとともにEPGも一般的に使えるようになって来た。ところが皮肉なことにそれと平行して地上波テレビのコンテンツの質は低下し続け、曰く子供と年寄りしか見ないような内容で満ちあふれている。せっかくのEPGで検索したり予約したりするようなコンテンツはどんどん減っている。これは新聞や雑誌と同様にテレビの広告収入が減り続けていることでも数字に現れている。一方インターネットの世界ではインフラとしてのブロードバンドは十分に使えるものになり幅広いジャンルのコンテンツが配信され始めている。もちろんインターネットの元来の特徴で玉石混淆のコンテンツが入り乱れているが、多くの石の中に少数ではあるが玉も確実に増えて来ている。
こういった中でナビコンのサービスの意味するところは大きい。入り乱れて存在する動画コンテンツを適切にナビゲートするサービスが現在存在していないからだ。ちょうどテレビのEPGや番組案内のような仕組みがない。グーグルのようにロボットが機械的に動画を集めてくるサービスではなく、また動画配信会社が自社のコンテンツの案内だけをするのではなく、公平にかつ網羅的にインターネット上の動画を紹介し検索できる仕組みだ。そこには人間の手による編集というフィルターが介在しユーザーにとって使いやすいものになっている。

サービス開始から半年間の運用の中で最も特徴的なイベントとして埼玉総体(インターハイ)が、7月~8月に掛けて行われ、NPO法人埼玉総体動画配信支援センターが全競技をネットで動画配信(一部ライブ)を行った。この時期は北京五輪や高校野球が行われた時期であるにも関わらず、期間中に130万ビュー、サイトへのアクセスは700万PVと多くの視聴があった。学校関係者や家族から大変好評を得たそうである。このようなサービスこそ、ネットでの動画配信の強みがあると木尾社長は語る。
木尾社長の計画では業界で動画に関するメタデータのフォーマットを決めて、より効率的に必要な動画を見つけられるデーターべースを作ろうとしている。これまで動画と言えば放送局が流す一方的な番組だったものが、これからはインターネットをベースにした動画配信が大きく伸びていくのは間違いない。日本の放送局も遅ればせながら番組のネット配信に積極的になりつつある。そしてそこにはナビコンのようなサービスが必須だろう。
来年もデジタルコンテンツのビジネスは大きくうねるように成長していくだろう。試行錯誤の部分がまだ大きくコンテンツの内容、配信方法、DRM、ビジネスモデルなど様々な動きが相互に影響されながら変化していくだろうが、着実に市場が拡大することだけは間違いない。
<了>
- ナビコン株式会社 代表 木尾保男 氏
元アスキー営業部長。EPGや映画情報サイトを手がけたノウハウを生かして6月から動画情報検索サイト「navicon」を開始。
今週、11日に東京の六本木で開催されたCNET主催の
Japan Innovation Conference 2008「~いよいよ本格化する動画ビジネス最前線」に参加した。

講演は以下の6つで、
1 グーグル株式会社「YouTubeにおける事業の方向性」
2 ライムライト・ネットワークス・ジャパン株式会社「コンテンツのリッチメディア化とユーザーエクスペリエンスの変化」
3 マイクロソフト株式会社「オンラインサービスにおけるマルチメディア戦略」
4 株式会社東芝「東芝の動画プロモーション戦略」
5 株式会社ビデオリサーチインタラクティブ「動画サイトの接触状況と動画コンテンツ・広告効果測定の考え方」
6 株式会社ドワンゴ「ニコニコ動画のビジネスについて」
この中から今回はグーグルのYouTube戦略とドワンゴのニコニコ動画戦略についてまとめる。

グーグルYouTube営業部長の牧野友衛氏の講演はグーグルのYouTube戦略ということで多くの人の注目を浴びていた。投稿する側も見る側もフォーマットを気にせずに利用できる動画共有サイトとしてあっという間に巨大なプラットフォームになると同時に動画を非常に身近なメディアにした功績は大きい。2005年の1月に設立して、5月にサービスを開始したということだが、本当に短い間に大きくなったものだと感心してしまう。現在23カ国でサービスしていて、月間2800万ユーザー、一日数億回ビュー、一分間に13時間のアップロードという数字を聞くと驚いてしまう。
牧野氏が強調していたのは、ユーザー、クリエーターと広告主の3者によるエコシステムの構築ということだ。ユーザーにとってはいつでもどこでも動画を共有できてコミュニケーションツールにもなる。クリエータにとっては、世界に自分の動画を届けることのできるツールで広告を通しての収益化が計れて著作権についても効率的に管理できる。広告主にとっては、的確に広範囲にリーチでき効果的な広告メディアである。
続いて、公式パートナーやコンテンツパートナーシップなどによる広告やキャンペーンの実際について報告された。ブランディングや市場調査などにも使えるツール類の紹介もなされた。インビデオ広告や視聴パターンの分析なども大変興味深かった。
議論の多い著作権処理についてもJRC、eLicense、JASRACなどとの包括契約によって著作権処理されたコンテンツの最も多い動画サイトになっている。さらに独自のコンテンツ管理システムによりリファレンスファイルと動画認識技術によってすべてのアップされた動画をマッチングしている。これも驚くべきことだ。
今後はワンクリックでAmazonやiTunesなどで動画を購入できるようにしたり、長尺の動画でIn RollやPre Rollの動画広告の挿入も予定している。アメリカでは今年の8月に26億回のSponsored Video Adsが流れて、これはYahooの24億回を超えたということだ。
牧野氏はまとめて次の三つのコンセプトを上げた。
1 Everywhere/More video
2 著作権管理 Regional管理も今後はやる
3 Monetization 収益化 AD/Promotion

ドワンゴのニコニコ動画戦略を報告したのは最近ドコモから移籍して話題になっている夏野剛顧問だ。夏野氏はYouTubeとの違いから話を始めた。ニコニコ動画は単なる動画共有サイトではなく、動画によるコミュニケーションの場を提供しているメディアだということだ。現在980万人の登録ユーザーがいてメールアドレスを登録している。一日に5000件のアップロードがある。その内20万人が優先接続を受けられる課金ユーザーだ。
その他の基礎数字としてはPage View6500万、Unique User 230万人、1900万Stream、260万コメント、平均滞在35秒、平均試聴時間194秒という数字が発表された。ユーザーは10代が29%、20代が46%、30代が16%、その他が9%だ。圧倒的に10代から20代の若者に支持されているメディアだ。
他に一万人を同時に繋ぐニコニコ放送やニコニコ会議などのLiveイベントについても興味深い事例とともに紹介された。野球中継や映画の試写会、新製品発表会、などなどその利用のアイディアはたくさんある。さらにニコ割アンケートといって、予告せずにその時に試聴しているユーザーおよそ20万人に対してアンケートをとるということもやっている。これなども、既存の調査に比べて圧倒的に効率良く即時性を持ったツールで、今後の社会システムを変えてしまうくらいのインパクトがありそうだ。
ニコニコ動画では12月4日に大きなリニューアルを予定している。2000万人レベルのユーザーを持つメディアになるための施策だそうだ。楽しみである。
次回は残りの講演について報告する。
<了>
9月29日のCNETの記事で米アマゾン・コムのオンデマンド動画サービスから動画を無料で保存できる状態になっていることが報じられている。(
Flash Media Server」にセキュリティ問題--アマゾンから動画を無料ダウンロード可能に)
アマゾンはAdobeのFlash Media Server 3.0を使って有料で映画やテレビ番組の動画のサービスをしているのだが、Adobeのソフトウェアのセキュリティホールのために特定のキャプチャソフトウェアで自由に保存ができてしまうということだ。Adobeはストリーミングの性能を重視してセキュリティの実装が甘かったことを認めているらしい。

デジタルコンテンツビジネスにおいてDRMは基盤となる技術で、コンテンツビジネスの拡大とともにDRMについても様々な議論がなされている。議論の傾向としては、DRMの否定的な面のみを取り上げて「DRMは必要悪である」と表現したり、極端な場合は「必要」が取れて「悪である」ように言われたりしている。そういった議論では頻繁にDRMの本来の目的を忘れてポイントの外れたままの議論になっている例も多い。または、アップルのSteve Jobsのように意識的にDRMの意義を歪めて説明して自分の主張を通すための道具に使っている例もある。
複製が容易で複製されたコンテンツの品質が劣化せず、しかもその配布が容易だというデジタルコンテンツの特性から、デジタルコンテンツをビジネスにしようとする場合、DRMは避けて通ることができない。そしてDRMはデジタルコンテンツの特性を制限することになるため、ユーザーの利便性を間違いなく損なう。この矛盾をどう解決するのかがまさにデジタルコンテンツの本質でもある。DRMだけでなく、広告や課金などビジネスモデルの面からも様々な試みがなされている。アップルのiTunesはその優れた成果の一つで音楽だけでなくビデオや映画の配信でも主要なプレイヤーになりつつある。

ビジネスを守りつつユーザーにとってストレスの無いDRMが求められている。またより多様なサービスを提供する基盤を作ることが期待されている。アイドックのKEYRING.NETを含め各社開発に力を入れているがまだ路半ばというところだ。DRMとはコンテンツをビジネスにする側とそれを消費する側のせめぎ合いで、DRMはデジタルコンテンツビジネスの普及の裏面史である。昨今言われるような「DRM不要論」では何も解決しない。
動画コンテンツを不正な利用から保護しようとした時、従来からのソリューションの一つはストリーミング配信である。デジタルコンテンツをダウンロードさせるからいろいろな不正な処理がされるのであって、ストリーミング配信すればその危険性が少なくなくなるというものだ。しかし現在ではストリーミング配信されたコンテンツを保存するソフトウェアは巷に溢れていて、もはや安全とは言いがたい。これは今回アマゾンの例で改めて証明されてしまった。もちろん、ダウンロード(Progressive Downloadも含む)される場合よりも不正利用の可能性が低いということは事実だが、ストリーミング配信していれば安全とは決して言えない。
ストリーミング配信がより安全だという理由で、多くのコンテンツが必要以上の配信インフラを使っている。このために、最近では米国のComcastのようにユーザーの利用する帯域を制限しようとする動きもあり、一層デジタルコンテンツが持つ本来のダイナミズムが阻害されようとしている。(
コムキャスト:「『過剰な』トラフィックをブロックしているだけ」--BitTorrent問題で釈明)
適切なDRMで保護されていれば、デジタルコンテンツの配信方法は何であってもいいはずである。適切なDRMの代わりに配信方法が制約を受けている。最近はP2Pによるコンテンツ配信も広く使われようしているし、DVDやBDなどによるオフライン配信も盛んになるはずである。現在デジタルコンテンツの配信にストリーミングが使われていたり、大規模なCDNが利用されていたりするのは適正なDRMの欠如が一つの原因かも知れない。
了
次回はさらに話題を広げて動画ビジネスと課金や広告との関連について考えてみる。