9月29日のCNETの記事で米アマゾン・コムのオンデマンド動画サービスから動画を無料で保存できる状態になっていることが報じられている。(
Flash Media Server」にセキュリティ問題--アマゾンから動画を無料ダウンロード可能に)
アマゾンはAdobeのFlash Media Server 3.0を使って有料で映画やテレビ番組の動画のサービスをしているのだが、Adobeのソフトウェアのセキュリティホールのために特定のキャプチャソフトウェアで自由に保存ができてしまうということだ。Adobeはストリーミングの性能を重視してセキュリティの実装が甘かったことを認めているらしい。

デジタルコンテンツビジネスにおいてDRMは基盤となる技術で、コンテンツビジネスの拡大とともにDRMについても様々な議論がなされている。議論の傾向としては、DRMの否定的な面のみを取り上げて「DRMは必要悪である」と表現したり、極端な場合は「必要」が取れて「悪である」ように言われたりしている。そういった議論では頻繁にDRMの本来の目的を忘れてポイントの外れたままの議論になっている例も多い。または、アップルのSteve Jobsのように意識的にDRMの意義を歪めて説明して自分の主張を通すための道具に使っている例もある。
複製が容易で複製されたコンテンツの品質が劣化せず、しかもその配布が容易だというデジタルコンテンツの特性から、デジタルコンテンツをビジネスにしようとする場合、DRMは避けて通ることができない。そしてDRMはデジタルコンテンツの特性を制限することになるため、ユーザーの利便性を間違いなく損なう。この矛盾をどう解決するのかがまさにデジタルコンテンツの本質でもある。DRMだけでなく、広告や課金などビジネスモデルの面からも様々な試みがなされている。アップルのiTunesはその優れた成果の一つで音楽だけでなくビデオや映画の配信でも主要なプレイヤーになりつつある。

ビジネスを守りつつユーザーにとってストレスの無いDRMが求められている。またより多様なサービスを提供する基盤を作ることが期待されている。アイドックのKEYRING.NETを含め各社開発に力を入れているがまだ路半ばというところだ。DRMとはコンテンツをビジネスにする側とそれを消費する側のせめぎ合いで、DRMはデジタルコンテンツビジネスの普及の裏面史である。昨今言われるような「DRM不要論」では何も解決しない。
動画コンテンツを不正な利用から保護しようとした時、従来からのソリューションの一つはストリーミング配信である。デジタルコンテンツをダウンロードさせるからいろいろな不正な処理がされるのであって、ストリーミング配信すればその危険性が少なくなくなるというものだ。しかし現在ではストリーミング配信されたコンテンツを保存するソフトウェアは巷に溢れていて、もはや安全とは言いがたい。これは今回アマゾンの例で改めて証明されてしまった。もちろん、ダウンロード(Progressive Downloadも含む)される場合よりも不正利用の可能性が低いということは事実だが、ストリーミング配信していれば安全とは決して言えない。
ストリーミング配信がより安全だという理由で、多くのコンテンツが必要以上の配信インフラを使っている。このために、最近では米国のComcastのようにユーザーの利用する帯域を制限しようとする動きもあり、一層デジタルコンテンツが持つ本来のダイナミズムが阻害されようとしている。(
コムキャスト:「『過剰な』トラフィックをブロックしているだけ」--BitTorrent問題で釈明)
適切なDRMで保護されていれば、デジタルコンテンツの配信方法は何であってもいいはずである。適切なDRMの代わりに配信方法が制約を受けている。最近はP2Pによるコンテンツ配信も広く使われようしているし、DVDやBDなどによるオフライン配信も盛んになるはずである。現在デジタルコンテンツの配信にストリーミングが使われていたり、大規模なCDNが利用されていたりするのは適正なDRMの欠如が一つの原因かも知れない。
了
次回はさらに話題を広げて動画ビジネスと課金や広告との関連について考えてみる。