なるいのDRM進化論

成井秀樹のKEYRING通信

ITmediaのオルタナティブブログにもより幅広い話題で執筆しています。
抄録をこちらに載せていますので、ご興味ある方はITmediaの方もご覧ください。

2011年1月アーカイブ

「三島由紀夫 幻の遺作を読む」もう一つの『豊饒の海』?ちょっと違うな。

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正月に読んだ新書の中からの一冊。三島由紀夫 幻の遺作を読む もう一つの『豊饒の海』 (光文社新書) [新書]

三島本は数限りなくあるがまたまた題名に惹かれて購入。膨大に残された三島の「豊饒の海」に関する創作ノートを読み解き、唯識や阿頼耶識といった仏 教思想を絡めながら、第4巻「天人五衰」の別版を仮想する。三島は豊饒の海の執筆に沿って23冊もの創作ノートを残している。「春の雪」「奔馬」「暁の 寺」「天人五衰」の4巻を昭和40年から45年の自決までの間に執筆した際にその構想や詳細のデータの他に並行して行われた盾の会の活動や自衛隊への体験 入隊などのことも書きこまれている。作者はこの創作ノートで特に最後の「天人五衰」について本作との違いが大きいことに眼をつけて、創作ノートに基づいた 仮想の第4巻を試みる。内容は本作とは全く違ったもので、月修寺での聡子と本田が対峙しての結末も失われている。

作者の井上氏は長年に渡って三島を研究してきた専門家である。三島作品を創作ノートまで含めて読み込んだ上に熟考を重ねている方なので、その見解に ついては尊重するが、三島本人が自決してしまったからにはだれも反論できない状況で、残された創作ノートを根拠に別版を作ることにどういった意味があるの だろうか。透の存在や転生の真実についてはそれぞれ読者に判断が任されている部分があったし、結末の聡子の述懐も小説の終わりとしては極めて妥当なものだ ろうと思っている。豊饒の海全体は壮大な構想に基づく幻想小説だと思うが、それを変に理屈づけて凡庸なものに変えて見せる必要はない。もともと創作活動は 複雑な精神活動に基づくものだと思う。特に数年に渡って書き続けられる長編になれば、その間に様々な心理的な葛藤や変節があって当然だろう。特に三島の場 合は並行して、最終的には自決にまで自分を追い込む極端な行動の時期でもあった。三島の思いは創作ノートなどに書かれたものをはるかに凌駕しているだろ う。

小説だけでなく芸術作品というのは作品として残されたものが全てで、その過程で何が起きたかとかノートに何が書かれたかなどは補完的な資料でしかあ りえない。もちろん井上氏の本意は第4巻の別版を提示することではなく、それを通して三島の考えたことを示したかったのだろうが、あきらかに第9章はよけ いなお世話である。かつてMozartの遺作Requiemの未完の後半をジェスマイヤーが凡庸に補作したり、Beethovenの第5交響曲にシンド ラーが勝手に「運命」と表題をつけたりしたことが思い出される。当人たちに悪気は無いのだろうがよけいなお世話である。ジェスマイヤーもシンドラーもとも に最も彼らの仕えた芸術家のことを一番知っていると信じてのことだが、どちらも無意味であるだけでなく作品を毀損するものでもあった。

内容(「BOOK」データベースより)
三島由紀夫は昭和四十五年十一月二十五日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた。その死の当日、遺作となった小説『豊饒の海』の第四巻『天人五衰』 の最終原稿が、編集者に渡された。ところが、「創作ノート」と呼ばれる三島のノートには、完成作とは大きく異なる内容の最終巻のプランが検討されていた。 近年、調査が進んだ「創作ノート」と、『豊饒の海』の重要なテーマである仏教の唯識思想に基づいて、三島が検討していた幻の第四巻の作品世界を仮構し、そ こから三島の自死の意味と、三島文学が書かれ、かつ読まれた場である戦後日本の時空間について再考する意欲作

ところで三島の最後の時期について書かれたものでは椎根和氏の平凡パンチの三島由紀夫 [単行本]の 方が圧倒的に面白かったし三島の最晩年を垣間見ることができる。椎根氏が三島の最後の三年間を平凡パンチの担当編集者として多くの行動を共にした記録だ。 もちろん井上氏の作品と椎根氏の作品はまったく違った趣旨のもので比べる必要も無いものだが、豊饒の海を書きつつ三島がどういう生活を送っていたかを知る のは大変興味ふかいことだ。

内容(「BOOK」データベースより) 1969年、あの狂乱と闘争の季節。平凡パンチ誌の最後の三島番記者が、自決まで三年間の肉体と精神の素顔を明かし、自衛隊乱入事件の「真実」に迫る。 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) 椎根 和 1942(昭和17)年2月9日福島県生まれ。早稲田大学卒業。元編集者。「平凡パンチ」「anan」編集部勤務、「POPEYE」編集長、「日刊ゲンダ イ」「Hanako」「relax」などの創刊編集長として編集畑を一貫して歩く(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

インプレスのEPUBマガジン OnDeckを読む。EPUBによる出版の幕開けか!

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12月22日にインプレスR&DからOnDeckという名のEPUBフォーマットによる雑誌が 創刊された。これまでにもEPUBの雑誌の例はあるが、メジャーな出版社からの定期刊行物としては初めてだろう。内容は基本的には電子書籍、電子出版につ いての話題と情報発信だ。EPUBなのでページという概念は無いのだが、PDF版も用意されているのでそちらを見ると78ページだ。面白いのはEPUBを 読めない環境のためにPDF版を用意してあるということなのだが、その制作方法が普通と違っていて、まずEPUB版を作りそこから簡易的なPDF版を作っ たらしい。そのためPDF版といっても全て画像で拡大するとブロックノイズが見られる。あくまでもEPUBで配信する電子雑誌なのであって、PDFは補完 的なものだということだ。

内容の中では、創刊号ができるまでというOnDeckのメイキングが担当者によって語られているところが面白い。本格的なEPUBによる雑誌を始め るまでの苦労と試行錯誤が率直に語られていて同様のことを目指している人には大いに参考になるだろう。まずEPUBで作る時に台割をどうするかというとこ ろから始まって、画像の扱いをどうするか、SVGなのかJPEGなのか、表組やフォントをどうするかなど、紙の出版をしてきたチームがEPUB出版を始め る時にぶつかる問題が具体的に説明されている。

EPUBということでまずはiPadのiBooksやStanzaで読んでみる。両者ともそれなりにこなれたEPUBビュアーなので大きな問題はな いが、自分の好みで言うとStanzaの方が自然な感じで好きだ。他にはMacのAdobe Digital Editionで見たが、これはいただけない。なぜPC用の優れたEPUBビュアーを誰も出さないのだろうか?これは疑問だ。Digital EditionはEPUBを表示するだけでなく文字の大きさによって段組表示もするのだが、操作性や全体のデザインなどIOSでのビュアーに比べると格段 に見劣りしてしまう。自分では試すことができなかったが、関係者の話ではAndoroid系のEPUBビュアーが一番よかったとのことだ。(ビュアーの名 前は失念してしまった。)

今後EPUBとWEBの垣根がどんど低くなりEPUBの表現力が高まってくると、これまでは難しいとされたグラフィカルな雑誌でもEPUBでという ことが現実化してくると思われる。現在はまだEPUBの表現力が乏しいのでPDFや他の画像にしたり固有のアプリケーションを作ったりということが行われ ているが、今年一年でここいら辺は大きく変わっていくだろう。アイドックではbookendでEPUBをサポートする予定だ高付加価値のEPUBコンテンツが出されるようになるとDRMのニーズも高まって来る。

下の画像は上から、Stanza、iBooks、Digital Editionでの表示の様子。

Stanza2


Ibooks


Dijital_edition

山田泰氏の『「最後」の新聞」』を読む 新聞というメディアの可能性を再発見

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正月休みにまとめて読んだ新書の中の一冊。「最後」の新聞というタイトルにひっかかった。以下はAmazonからの引用
「最後」の新聞 ~サッカー専門紙「エル・ゴラッソ」の成功~ (ワニブックスPLUS新書) [新書]内容紹介 日本初、ワン・アンド・オンリーのサッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」紙。

創刊6年で、週3回、発行部数20万部を誇るスタイリッシュなこの新聞は、製作・流通・読者開拓で、宅配&駅売り・DTP製作・地方在住の契約ライター群による取材網など、新旧のシステムを大胆に併用し、紙で作られた「新聞」の最終進化形を示しています。

同紙の創刊者が綴るサッカーへの愛と、自由なメディア実現のサクセス・ストーリーが、勇気を与えてくれます。
内容(「BOOK」データベースより)
「サッカーだけが載っている新聞を新しく作れないか?」2002年日韓ワールド・カップの決勝戦の日、閃いたこのアイデアを実現させるために、"ずぶの素 人"が、新聞発行に向けて猛進し、遂には週3回発売、発行部数20万部の「エル・ゴラッソ」が出来あがります。世の中では、すでに新聞メディアの衰退、危 機が囁かれて久しく、そんな時代に、なぜ敢えて、どのような方法で「新聞」は甦ったのか。いや、それは、本当に「新聞」の再生なのか。

最近は新聞といえば雑誌と同じようにビジネスモデルが崩壊して急激に存在感を失いつつあるメディアとして取り上げられることが多いが、その中でこの タイトルに惹かれて読んでみた。タイトルからはまた廃れいく旧メディアの話かとおもいきや、新聞って捨てたものでは無いという若者の提言だった。ワールド カップに刺激を受けてサッカー情報のメディアを始めた山田氏がネットではなく敢えて新聞という古いメディアを使って情報を発信始めた話だ。新しく新聞を作 るにあたって従来の新聞の組版の仕組みを使わずに雑誌制作の手法で始めた経緯や、新聞の読者に対して「経験・体験」(エクスペリエンス)を与えるのが使命 という発想が新鮮だ。

「ゼロベースから作れば、新聞は成功する」と山田氏は強調する。新聞を完成された流通ネットワーク機能を持った優れた媒体であると評価している。確 かに前日の深夜から早朝にかけて紙面が作られて、印刷、配送されて翌朝には読者に届いているというシステムは他には無いものだ。ネットワークが発達して Web上での情報はもっと素早く安く届けられているのは誰でもが知っていることだが、新聞というパッケージメディアの老舗の再評価は新鮮だ。「エル・ゴ ラッソ」というサッカー情報紙を見たことは無いが、この本で紹介されている写真を見ているとなかなか魅力あるようだ。

専門性の高い情報をパッケージしてターゲットされた読者に届けるというメディアの根源的な機能を実現して見せてくれているようだ。Webや携帯端末 ようにも情報を発信しているがそれはあくまでも補完的なもので新聞があくまでも主なメディアになっている。山田氏のやっていることは日本の大新聞から見れ ば小さな小さな実験に過ぎないかも知れないが、多くの示唆に富んでいる。これからの新聞のありようを考える時、参考になる試みだ。もっとも日本の大新聞の 経営者にはこのような新聞の初心に帰ったような見方は到底できないだろう。朝日にしても日経にしても、思い切ってリストラ(人斬りではなく本来の意味で) してスリム化しそれぞれ専門性を生かした新聞を目指すことはできないものだろうか?800万だ1000万だとか言う水ぶくれした読者数を守るのではなく、 アメリカのQuality Paperのような姿になることがビジネスとしての存続に繋がるし、読者もそれを望んでいると思うのだが。

ちなみにPC向けにPDFで発信している情報はアイドックの
KeyringPDFのDRMが使われていた。このブログを書くまで知らなかったので嬉しいサプライズだった。 


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プロフィール
成井秀樹写真
アスキーにてMS-DOSなどマイクロソフト製品の日本市場導入にかかわり、西社長(当時)やマイクロソフト社長ビル・ゲイツ(当時)から薫陶を受ける。99年アイドック株式会社を創業、05年PDFコンテンツの著作権保護ソリューション「KeyringPDF」を開始。07年、国内初のSaaS型FLASHコンテンツ保護ソリューション「KeyringFLASH」を開始した。デジタル著作権保護の第一人者。趣味はフライフィッシング、東京外国語大学卒、東京都出身。
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