なるいのDRM進化論
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抄録をこちらに載せていますので、ご興味ある方はITmediaの方もご覧ください。
上の図はAmazon(日本とUS)のサイトからクリップしたアーティストセントラルと著者セントラルの例。USのサイトからは私の好きなDan BrownとThomas Harris。日本からはランダムにDreams come trueとAKB48、それに村上春樹と村上龍のお二人だ。小さくて見えないかな?ということでそれぞれの名前に各ページへのリンクを貼っておく。ドリカム以外は私の好みではないのだが、有名だということで参考に使わせていただいた。
日本では昨年の8月末から始められたAmazonのサービスだ。アーティストセントラルも著者セントラルも考え方は同じで、Amazonに一つでも 作品(CD、DVD、書籍)が登録されていればその作品の著者や代理として出版社などがそれぞれのページをAmazon内に編集して登録できるというもの だ。それぞれ別に著者サイトやブログを持っている場合でも、このようにAmazon内に自分のページを設けて、作品を紹介したり自分について語ったりメッ セージを発信できるというのは大きな意味がある。
Amazon内の著者ページストアに行くと積極的に情報発信している作者がリストされている。簡単なプロフィールを載せているだけの人も多いが、自ら作品について語ったり、作品の一部を動画で紹介したりしている作者も増えて来ている。
従来のアナログ媒体(紙やCDなど)でも電子媒体でも同じことだが、コンテンツをネットで販売する際に一番重要なのはそのマーケティングである。コ ンテンツをAmazonやiTunesなどのように、どんなに有力なプラットフォームに登録しようとも、それだけでは無数のコンテンツの中に埋もれてしま う。また商品リストに付けられる説明や解説だけでは、その商品を積極的にユーザーに訴求することはできない。つまり、作品そのもの以外に様々な形での情報 発信が必要になってくる。それらが有機的に繋がって最終的にAmazonやiTunesに誘導される。作者または出版社がおこなうブログやTwitter での日頃からの情報発信が非常に大切になってきている。そういった情報発信の場所を自らが影響力のあるサイトであるAmazon内に置くことでSEO効果 が抜群に上昇する。
私がピックアップした人たちはもうすでに名が売れているので、べつにAmazonのセントラルが大きな意味を持たないが、他の99%のアーティストや著者たちにはこういった行為が決定的な意味を持つ。
アメリカの場合はFacebookが大きな役割を果たしているが日本にはそれに相当する場がないので、ことさらにAmazonのxxxxセントラル は重要な意味を持っている。またアメリカの出版社やエージェントと呼ばれる人たちの大きな役割がこういったネット上の情報発信をどのように効率的に行うか にある。日本ではまったくこう言ったことが出版の機能として行われておらず、意欲のある、またはモノ好きな作者の個人技に任されている。
今後日本でも電子出版が本当に立ち上がることを切望するが、その時こういった周辺のサービスが重要になってくる。アイドックのDRMをベースにした ソリューションも単に電子コンテンツの流通を支援するだけでなく、マーケティングや広告としての電子コンテンツを支援するものでありたいと考えている。アイドックのサービスはこちらへ。
毎年秋も深まると街路の銀杏は葉を黄色くし、その葉は地上に落ちて朽ちていく。何年もの間、出版業界はマイナス成長を続けている。先進各国が成長の鈍化またはマイナス成長に耐えているのと似ている。これをあたかも補うかのように電 子媒体による出版が立ち上がりつつある。これが問題だ。どう考えても電子出版は紙媒体の出版の落ち込みを補うことはできない。このことは出版界の人たちは 分かっている筈だ。しかし、こういった自らの状況を正確に冷静に判断するのは非常に難しいようだ。だれでも自らがやってきたことが衰退していくのみで救い が無いということは信じたくない、信じたくないと思う気持ちがありもしない救世主を見つけてしまう。たまたま紙媒体のビジネスが先細って行く時に同期を とったように電子媒体のビジネスが立ち上がって来たので、人は「ああ、紙が減って電子に置き換わるのだ」と勘違いしてしまうのだろう。
実際、これはとんだ勘違いで、紙が減るにしたがって電子が増えるのでは無く、実は両者は大した相関関係を持たずに動いているようだ。大きな流れとし ては紙が減るのに呼応して電子が伸びるように見えるが、電子が紙を補完するという望みは起こりえない奇跡を信じることに等しい。経済学で言うところのゼロ サム社会、
経済成長が停止して資源や富の総量が一定となり、ある者が利益を得るとだれかがその分だけ不利益をこうむる社会。米国の経済学者サローの用語。で は無く、非ゼロサムまたはマイナスサムと呼ばれるゲームが進行している。参加者全員が敗者となるゲームだ。競馬などのギャンブルでは、敗者から集めた金を 勝者で分けるため、原則としてゼロサムになる。非ゼロサムの代表は株だ。上がる時は全員が上がり、下がる時には全員が下がる。株価が上がれば時価総額が増 え、その増えた分だけ価値が生まれている。上がる時には時価総額が増えた分だけみんなが得をし、下がる時には時価総額が減った分だけみんなが損をする。 この悲劇的な状況から脱するには、土俵を変えるしかない。新しい価値の創出をしなければならない。出版という会社の株価を上げなければならない。出 版界にはそれが求められているのだと思う。紙を電子に変えただけでは先細りを防ぐことはできない。コンテンツビジネスに対する考え方を180度とは言わな くても90度変える必要がある。音楽や映像などの同じコンテンツビジネスの進化は出版界にとって大いに参考になる。CDもDVDも売れなくなってダウン ロード型のコンテンツ配信に置き換わって来た。だが、そのダウンロード型のビジネスはCDやDVDといったパッケージ型のビジネスの落ち込みを補うことは なかった。補っているのはコンサートやイベント、その他のグッズの販売、または広告などによる他のビジネスとの連携などだろう。果たしてその総和がプラス になっているのかは分からないが、音楽業界がそちらの方向を見ているのは間違いなさそうだ。(つづく)
12月22日にインプレスR&DからOnDeckという名のEPUBフォーマットによる雑誌が 創刊された。これまでにもEPUBの雑誌の例はあるが、メジャーな出版社からの定期刊行物としては初めてだろう。内容は基本的には電子書籍、電子出版につ いての話題と情報発信だ。EPUBなのでページという概念は無いのだが、PDF版も用意されているのでそちらを見ると78ページだ。面白いのはEPUBを 読めない環境のためにPDF版を用意してあるということなのだが、その制作方法が普通と違っていて、まずEPUB版を作りそこから簡易的なPDF版を作っ たらしい。そのためPDF版といっても全て画像で拡大するとブロックノイズが見られる。あくまでもEPUBで配信する電子雑誌なのであって、PDFは補完 的なものだということだ。
内容の中では、創刊号ができるまでというOnDeckのメイキングが担当者によって語られているところが面白い。本格的なEPUBによる雑誌を始め るまでの苦労と試行錯誤が率直に語られていて同様のことを目指している人には大いに参考になるだろう。まずEPUBで作る時に台割をどうするかというとこ ろから始まって、画像の扱いをどうするか、SVGなのかJPEGなのか、表組やフォントをどうするかなど、紙の出版をしてきたチームがEPUB出版を始め る時にぶつかる問題が具体的に説明されている。
EPUBということでまずはiPadのiBooksやStanzaで読んでみる。両者ともそれなりにこなれたEPUBビュアーなので大きな問題はな いが、自分の好みで言うとStanzaの方が自然な感じで好きだ。他にはMacのAdobe Digital Editionで見たが、これはいただけない。なぜPC用の優れたEPUBビュアーを誰も出さないのだろうか?これは疑問だ。Digital EditionはEPUBを表示するだけでなく文字の大きさによって段組表示もするのだが、操作性や全体のデザインなどIOSでのビュアーに比べると格段 に見劣りしてしまう。自分では試すことができなかったが、関係者の話ではAndoroid系のEPUBビュアーが一番よかったとのことだ。(ビュアーの名 前は失念してしまった。)
今後EPUBとWEBの垣根がどんど低くなりEPUBの表現力が高まってくると、これまでは難しいとされたグラフィカルな雑誌でもEPUBでという ことが現実化してくると思われる。現在はまだEPUBの表現力が乏しいのでPDFや他の画像にしたり固有のアプリケーションを作ったりということが行われ ているが、今年一年でここいら辺は大きく変わっていくだろう。アイドックではbookendでEPUBをサポートする予定だ。高付加価値のEPUBコンテンツが出されるようになるとDRMのニーズも高まって来る。
下の画像は上から、Stanza、iBooks、Digital Editionでの表示の様子。