なるいのDRM進化論

成井秀樹のKEYRING通信

ITmediaのオルタナティブブログにもより幅広い話題で執筆しています。
抄録をこちらに載せていますので、ご興味ある方はITmediaの方もご覧ください。

カテゴリ:電子出版

本の価格は誰が決めるのか?Amazon vs MacMillan、不可思議な戦い

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Picture_5AmazonとMacMillanの間で奇妙な駆け引きが行われている。まだ新しいニュースで情報が錯綜していることと、両社とも正式なコメントを出していないので真相は明らかでないが、与えられた情報をもとに本の価格決定をめぐる主導権争いについて考えてみる。他の出版社と同様にMacMillanはAmazonとKindle版の価格について交渉または論争を続けていて、Amazonがつける$9.99を$15に上げるように要請していた。それが突然AmazonサイトからMacMillanの本が消えたというのだ。Usedや英国やカナダのAmazonサイトではこれまで通り売られているが、米国のAmazonからは消えたということだ。

ニュースソースによって表現が違っているが、あるところではMacMillanがAmazonから自社の書籍を引き上げたと言っている。実際にはそれは独禁法から言っても考えられないのでAmazonが商品リストから削除したのだと思われる。そこで単純な疑問としては何故Amazonはそんなことをする必要があるのかということだ。MacMillanからどんなプレッシャーがかかろうともKindle向けの価格を$9.99でもなんでも自由に設定すればいいではないか?逆に言えば、MacMillanは電子本の卸価格を上げることでAmazonに圧力をかけることができる。AmazonがKindle用には赤字で売っていると言われることがあるが、それもAmazonの自由のはずだ。僕はアメリカの独禁法に詳しい訳ではないので間違っているのかも知れないが、どこかの国と違って、アメリカでは書籍だろうが他の商品と一緒で自由販売が原則のはずだ。流通の上流にいる者が下流の価格を制限することはできない、できるのは自分の卸価格を決めることだ。

MacMillanが紙媒体の価格を維持するために、電子媒体の価格が極端に低くつけられることを望まないのは分かる。ただ、そうであれば電子媒体での販売をやめるかまたは卸価格を高く設定するばいい。一方Amazonが電子媒体を安く設定しようとする気持ちも分かる。電子媒体はどうしても紙媒体に比べて商品としての価値は低い。Kindleなどの電子読書端末で読む利点はあるものの、もしもKindle用の価格が紙媒体と同じかそんななに変わらなければ電子媒体はほとんど売れないだろう。$9.99は紙媒体の1/2もしくは1/3に相当すると思われるが、それが適性かどうかは市場が決めることで、現在は著者、出版社、小売、読者の間で適性な価格が模索されている段階だろう。もう一度言うがどこかの国のように書籍流通が拘束されていないアメリカではこういった市場での模索がダイナミックに行われているのだろう。

今回のAmazonとMacMillanの駆け引きもその一環だと思う。数日の内に妥当な線に落ち着くだろう。MacMillanとしても自社の紙媒体の商品がAmazonで販売されないというのは致命的な打撃だろうし、Amazonにとっても出版社とこのようにもめるのは得策ではない。出版社にとってはここに来てAppleやB&NやSkiffのように選択肢が次々に出てきているのでさらに強気になっているのも事実だろう。

よく電子本の適性価格は?ということを聞かれるが、それは個々のコンテンツごとに違うし最終的には市場が決めることだ。実際にAmazonではベストセラーになるような本が無料でKindle用に売られているケースがある。これは明らかにプロモーションとして電子媒体を使っている例だ。Kindleが始まった時、出版社はこぞって$9.99という価格に反発をしたが、2年経った現在は、落ち着いてそれぞれの適性価格を探している。

DRM進化論、出版流通を再定義する(4)日本電子書籍出版社協会の謎、出版社が21社集まって何をしようとしているのか?

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Picture_4日本電子書籍出版社協会の話題がかまびすしい。報道ばかりが先行していて当事者による発表を見ることができなかった。ということで、報道を要約すると、

日本の出版業界が「キンドル」の対応にあわただしい。キンドルの日本語版が出れば日本の出版社は共倒れになりかねないという危機感によるものだ。このため出版社21社が来月「日本電子書籍出版社協会」を設立することにした。競争関係にある出版社が異例に団結したのは、著作権法が「著述のデジタル化に対する権利は著者にある」と規定したためだ。ある出版社の関係者は、「Amazonが著者に直接交渉して電子書籍の出版権を得た場合、その本を最初に刊行した出版社は一切手を出せなくなる」と懸念している。Amazonがデジタル印税を紙の本の印税より多く支払うなど積極的に出てくる場合には資金力に弱い出版業界は身動きが取れなくなるという懸念が出ている。これに対応し、共同で電子書籍会社を設立してAmazonの攻略を事前に食い止めることが日本の出版業界の構想だ。出版社は日本政府に制度的支援を要請し、著者らから書籍のデジタル化権利を確保する方針だ。出版社は電子書籍のデジタル規格を統一する作業もともに進めていく。

まさにツッコミどころの多い内容だ。当事者の意図をどこまで正確に表現しているのか不明だが、とりあえずこれを当事者(21社の出版社)の意図としてとらえる。論点は大きく3つに整理できる。

1)Amazonと著者が直接交渉すると印税が上がる云々。こんなコメントを聞いて日本の作家達は黙っているのだろうか?たとえこれが出版社の本音だとしても、こんなにストレートに発言してまずいと思わないのだろうか?言い換えれば、出版社は著者を抱え込んで紙だろうが電子だろうが出版の自由は著者には無いと言っていると同じだ。また印税も出版社のコントロール下におくと宣言している。紙の出版を人質にして電子で出版する自由を取り上げようとしている。

2)共同で電子書籍会社を設立してAmazonの攻略を事前に云々。これも理解不能な内容だ。電子書籍会社とはいったい何をする会社なのか?Amazonの攻略を食い止めるとはいったい何をするつもりなのか?現在全国で書店が壊滅的に減少しているのに出版の落ち込みがまだそれほどではないのはひとえにAmazonのおかげではないのか?Amazonはすでに日本の書店流通のかなりの部分を占めている。書店が身近に無い人、書店に行く時間の取れない人などが本を買う手段は今やAmazonしかない。今仮にAmazonがなくなったら、日本の出版はすでに崩壊しているはずだ。「そのAmazonを食い止める」とは一体どういう意味なのだ。はっきり言えば、AmazonがアメリカのようにKindleで書籍の価格破壊を行うのを食い止めたいと言うわけだ。もっとはっきり言えば電子書籍でせっかく必死に守ってきた再販制度を壊されてはたまらないと言うことだ。こんなことは誰でも分かる事なのに、それをはっきり言わずに自らの行動を説明しようとするから訳の分からない文章になってしまう。

3)出版社は電子書籍のデジタル規格を統一する作業もともに進めていく云々。これも意味不明だ。アメリカではすでにePubというオープンなフォーマットで電子書籍を出版すると言うのは既定路線だ。Amazon、Google、Barns&Noble、Sonyなど主要な電子書籍ビジネスのプレイヤーはすでにePubをサポートすることを表明している。Appleだけが不明だが、おそらくAppleも電子書籍を扱うのであればePubをサポートしてくるだろう。ここで日本の出版社がこれから集まって新しい規格を作るというのか?ePubの仕様はオープンで縦書きなどの日本ほかの言語対応についても考慮されている。ただまだ実際に実装された実機が無いという問題があるが、これはいずれ解決されることだ。出版社が集まって何かすると言うのならば、こういった問題を認識して日本語ePubの実装をハードメーカーやソフトメーカーに働きかければいいのだ。

上記3点の論点を総合して言えることは今回の動きは出版社が書籍ビジネスの流通における価格決定権を確保しようとしているということだ。現在のように紙媒体での出版が99%を占めている段階では出版社の価格決定権が確保されている。著者には数%から10%の印税を払い、残りの流通における価格は再販制度という埃だらけの鎖で守られている。結果として書店の数は激減し、返本率は50%に近づき、出版社は自転車操業のためにひたすら粗製濫造を繰り返し、気がつくと誰もが利益を上げられないビジネスになってしまった。

確かに、AmazonのKindleは日本の出版界にとって黒船になる可能性がある。電子出版が行われるようになるとAmazonのように力のある書店や流通業者が著者と直接交渉して印税を決めることができる。著者は自らの作品の知的価値を自ら決定できる当たり前の状態になる。電子コンテンツには再販維持は認められないので書店や流通は状況に応じて自由に価格を決定できる。ここで重要なのは著者が最初の価格を決めるが、その後流通の段階では他の商品と同じように市場の原理で価格は変動することができるということだ。書籍が始めて普通の商品になる。著者との印税契約が%で決められていれば流通の価格に応じて印税も変化する。電子書籍はまだ揺籃期で紙媒体のビジネスを左右するほどの力は無いが(雑誌や新聞または実用書、教科書など例外も多いが)出版社としては電子書籍が鉄壁の出版社による価格コントロールの蟻の一穴になることを恐れている。

以上のことは別にぼくでなくても、誰もが理解できることなのに今回の報道でもマスコミは全く触れない。「出版社が大同団結してAmazonに対抗」みたいなまったく意味不明なコメントしか書けない。実はぼくは電子書籍について一般とは違った見方をしているのだが、これはまた別の機会に触れよう。

DRM進化論 出版流通を再定義する(3)日本の出版界は新しい形のガラパゴスになってしまうのか?

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Picture_1

写真上はガラパゴスイグアナ、Wikipediaによるとガラパゴスとは

技術やサービスなどが日本市場で独自の進化を遂げて世界標準から掛け離れてしまう現象のこと
だ。これまでIT系ではPCや携帯、HDテレビ放送などが挙げられる。これまではどちらかというと日本の技術が先行して他の世界とは違った規格を先行させてしまうといった感じがあったが、最近の電子書籍市場の動きを見ているとなんだかこれまでとは違う様子だ。

昨年末から正月にかけてアメリカでは様々な形の電子書籍端末やタブレット端末が発表され、いよいよ電子書籍/雑誌/新聞ビジネスが花咲こうとしている。とかく新しい端末のハード仕様に眼が行きがちだが、本来注目すべきはそれぞれの狙っているビジネスモデルだ。電子ペーパーだろうが液晶だろうが、3GだろうがWiFiだろうが本質では無い。本質は巨大な出版ビジネスの覇権をどこが支配するかということだ。2年前にAmazonがKindleを始めてからすでにアメリカでは書籍や雑誌または新聞の価格の決定権をだれが持つかということが争点になっている。流通において価格決定権はビジネスにおいてそれこそ決定的な意味を持つ。ここに既存書店系、出版社系などの新規参入があり、春にはIT系としてアップルの参戦も予定されている。いつものことながらこのように市場が新しい技術によってダイナミックに変わっていく姿を見ると、アメリカという社会を羨ましく見てしまう。

日本の技術力をもってすれば素晴らしい機能の端末ができるし日本のインターネットは世界有数のブロードバンドを実現している・・・・なのに、日本の出版界は全く動こうとしない。日本の出版業界はあたかもAmazonやAppleが日本上陸を果たして仕組みを作ってくれるのを口を喰わえて待っているかのごとくだ。それはそれで良いのかも知れない。いまさら日本独自の仕組みを作って世界に広める力は無い。問題は電子書籍のフォーマットがePubになろうとしているのに日本語のePubを作るソフトウェア環境がまったく用意できていないことだ。AdobeはIndesignでePub出力をサポートしているのだが欧文対応のみだ。先日日本のAdobeの話を聞く機会があったが、日本語ePubの対応の具体的な予定は無いとのことだった。これまでのガラパゴスは日本が技術的に進化し過ぎて世界の標準と合わなくなったという感じだったが、今回は完全に日本は世界の進化について行けずに取り残された状態だ。このままePubの日本語が出遅れるとKindleなどの海外の電子端末も日本では不完全なものになってしまう。Appleがどういった仕組みで始まるか不明だが電子書籍をやるからにはePubということになるだろう。その時、日本の電子コンテンツが画像ベースのコミックだけというのはいかにも残念である。

プロフィール
成井秀樹写真
アスキーにてMS-DOSなどマイクロソフト製品の日本市場導入にかかわり、西社長(当時)やマイクロソフト社長ビル・ゲイツ(当時)から薫陶を受ける。99年アイドック株式会社を創業、05年PDFコンテンツの著作権保護ソリューション「KeyringPDF」を開始。07年、国内初のSaaS型FLASHコンテンツ保護ソリューション「KeyringFLASH」を開始した。デジタル著作権保護の第一人者。趣味はフライフィッシング、東京外国語大学卒、東京都出身。
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