前回の結論として、紙媒体の雑誌の多くは何らかの形で電子媒体に移行せざるをえず、同時にその電子雑誌は広告モデルに重心をおいた無料化へ大きく舵を切ることになるだろうと書いた。
では電子雑誌にとってDRMはどういう意味を持ち、どういう役割を果たそうとしているのか?

現在見ることのできる電子雑誌はほとんどが既存の紙媒体の編集やデザインをそのまま電子的な紙芝居にしたものだ。電子雑誌のビュアーには各社いろいろ工夫を凝らしている。
閲覧のためのボタンや3Dアニメーションを使ったページめくりなど、これまでになかったユーザーエクスペリエンスを実現している。
しかし、現在のところ電子雑誌にはまだDRM(Digital Rights
Management)は施されておらず、出版社にとっての懸案事項となっている。今のところ、見本誌として一部分のみを電子化したり、バックナンバーの
みを公開したりしているのも、まだ紙媒体の販売を第一に考えているのと、記事や写真を保護せずに配信することができないからであろう。
DRMが必要になるのはコンテンツの著作権や肖像権の保護のためだけでなく、広い意味での流通のコントロールが目的である。
通常著作権者との契約が紙媒体だけの場合、電子媒体で配布することができない。電子媒体を契約に含めようとすると契約金額が上がるか契約ができないことも
ある。出版社でコントロールできる編集ページの場合はまだいいが、広告頁の場合はその権利関係の処理がより大きな問題になる。
このように紙媒体の紙面そのままで電子化する場合にはいくつかの壁がある。
企画、編集の段階から電子配布を前提として著者やカメラマン、または広告代理店との契約を処理すれば問題ないのだが、現状ではそこまで本腰を入れて電子媒体を真剣に考えている雑誌は少ないために、どうしても曖昧な電子化ということになってしまう。
紙媒体と電子媒体を総合的に考えたビジネスモデルが存在せず、取材や編集にかけるコスト、載せる広告の適正な価格などが未開拓だというのが現実だ。

現在、出版社、広告代理店、インターネットポータルなどの各社が新しいビジネスモデルの構築を目指して試行錯誤している。雑誌で紹介された物品をすぐに購入
できるサービスやコンテンツの内容にマッチした広告、それもダイナミックに変更挿入される広告などが考えられる。広告の効果測定の技術が組み込まれること
により紙媒体とは決定的に違う広告主にとってより理想的な媒体に成長する可能性がある。DRM技術はこれらの新しいビジネスモデルを構築するための基盤技
術になろうとしている。
新しいビジネスの変化に対応するソリューションとして、単にコンテンツの複製を抑制し不正利用を防ぐだけの技術ではなく、より魅力的な電子コンテンツビジネスが生まれるような基盤を提供するものになろうとしている。
了
次回は電子コンテンツの中でも一番ポピュラーな動画コンテンツについて考えてみる。
インターネットポータルと雑誌のコラボレーション
インターネットポータルと雑誌のコラボレーション大手ポータルが雑誌との連携に積極的だ。Yahooはタグボードと組んで
XBrandというページで主要10雑誌と提携して各雑誌の内容を紹介している。MSNはマガジンハウスと組んで「Hanako」、「Tarzan」、「クロワッサン」などのバックナンバーの閲覧ができる
マガジンサーチを始めた。

手法は違うがそれぞれ人気雑誌のコンテンツをポータルに取り込もうとしている。出版社ではそれぞれのホームページで雑誌の立ち読みやバックナンバーの閲覧ができるようにしている場合もあるが、やはり大手ポータルのように人の集まる場所に出版社の垣根を超えて集められている方がユーザーにとって圧倒的な利便性がある。
雑誌を発行する出版社は崩壊しつつある紙媒体でのビジネスモデルの再生を電子媒体に求め、ポータルはより多くの集客を雑誌コンテンツに求めている。ポータルはこれまでもニュースや天気予報などの一般的な情報コンテンツを新聞社などとの提携で集めていたが、ここにきてよりリッチなコンテンツを自らのサイトに誘導しようとしている。
問題山積みの出版界の中で雑誌がいち早く動き始めているのには理由がある。販売部数は減り、広告は取れなくなってきている雑誌は出版の中でも生き残り戦略の緊急性が高い。昨年、インターネット広告が雑誌広告を超えたが、それは単なる象徴としての出来事でしかなく、事態はより深刻である。各出版社は雑誌コンテンツの配布形態またはビジネスモデルそのものの変革に果敢に挑んでいるが、まだその結果を判断する段階にはない。インターネットや携帯電話などの技術変革が100年以上の歴史を持つ出版というビジネスモデルを大きく揺さぶっている。結論としては紙媒体の雑誌の多くは何らかの形で電子媒体に移行せざるをえず、同時にその電子雑誌は広告モデルに重心をおいた無料化へ大きく舵を切ることになるだろう。
先月のブックフェアでも、電子雑誌のビュアーや制作ツールの展示が多く見られた。ソリューションとしては単に電子雑誌をコンテンツとして売るという単純なものでなく、バックナンバーを無料で公開したり、紙媒体と同様に広告モデルしたりといった試みが主流である。
最近の主な電子雑誌の動き

ポータルとの連携以外でも雑誌社は各社とも電子メディアでのビジネス展開を積極的に始めている。主婦の友社の「
ef」 は電子媒体専門の雑誌だ。
マガジンハウスは自社のサイトでバックナンバーや最新雑誌の一部を立ち見という形で公開している。小学館は
Sookというサイトで電子雑誌を公開している。
Fujisan.co.jpは従来からの雑誌の定期購読売りと同時に電子雑誌の配信も始めている。
雑誌の生き残り戦略の基本となるのは電子媒体でのビジネス展開である。従来、紙媒体での販売の減少を恐れて電子媒体への取り組みが遅れがちであったものが、最近は各出版社とも積極的に電子媒体での配信に意欲を見せている。これらはどれも、既存の紙媒体の編集やデザインをそのまま電子的な紙芝居にしたものだ。
Fujisan.co.jpは米国Zinio社のシステムを使っていたが、今は他社と同じようにページ情報を画像にしたものをFlash形式で配信している。閲覧のためのボタンや3Dアニメーションを使ったページめくりなど、これまでになかったユーザーエクスペリエンスを実現している。ユーザーのモニターのサイズに依存するが、15インチ以上でSVGA以上の解像度があれば、閲覧するのにそんなに苦労はしない。ビュアーによって、拡大縮小機能や検索機能などに差があるがおおむね同等と言える。
次回はこうした電子雑誌とDRMの関係について考えてみる。