AppleのSteve Jobsが療養のために長期休暇に入っているのは、大変寂しい思いがする。Appleのコンファレンスも今年からはSteveに代わってほかの役員が行っているが、その役者不足の点はなんとも覆いがたいものがある。彼が今後元気になって復活してくれるかは神のみぞ知るところだが、これまでの彼の目覚ましい働きはこれからの業界でも語りぐさになるに違いない。

そのSteveがAmazonのKindleについてAmazonのJeff Bezosと会談した大変面白い記事がある。今年の2月にCNET USのReviewに載った話で、会談とは言っても実際の話ではなく、あくまでも空想の話だ。全文を紹介することはできないのでぜひ、電子書籍端末やAppleやAmazonの動きに興味のある方はご覧になって欲しい。英文だが簡単な会話なので難しくないし、笑えること間違いない。
・
cnet reviews : Steve Jobs meets the Kindle 2007年11月某日、SteveはJeffからKindleを見せられて、そんなもの売れるわけがないと一蹴するのだが、その言い方が彼らしいのと、いかにも本心を隠している感じがいかにもで本当の記事かと一瞬思ってしまう。「そもそもアメリカ人の40%は去年1冊も本を読んでいないんだ」「最低のデザインだし、ボタンが多すぎる、エレガントじゃない」「誰がそんなものに400ドルも払うと思っているんだ」といった辛辣なコメントが続く。
面白いのは、Steveに読書端末なんて市場が小さすぎると言われてJeffが
Bezos: You have 5 percent of the PC market. I'm looking at the 5 percent of people who read a lot. How's that any different?
と切り返すところだ。これにはさすがのSteveも黙ってしまう。会談のクライマックスはこう続く、
Bezos: Think about it. "The Apple Reader powered by Amazon."
Jobs: How 'bout "The Apple Reader powered by Apple?"
Bezos: People don't read books.
Jobs: Until I make it cool to read 'em.

ここの辺りは最近のApple周辺の噂を知っている今となっては大変興味深いものがある。AmazonはiPhoneやiPod TouchでKindle用のデジタルブックが読めるソフトをApp Storeで配り始めたし、大型のiPod TouchやNetbookに対抗するMacBookのTouch Panel版であったり様々な噂や憶測が業界を流れている。Appleの本社に大量の本が運び込まれて来るべきMacBook Readerのためのデジタル化が進んでいるとか、まことしやかに語られている。
・
アマゾン、iPhone向け電子書籍リーダーアプリを発表--「Kindle」とも連動・
アップルの新タブレットで新たなうわさ--今度は「Kindle」に似た製品・
アップル、タッチスクリーン式ネットブックを開発中か
「正月に考えたこと」というタイトルで書いてきたが、二回目から大分時間が経ってしまった。もう二月も後半に入っているので、正月という訳にもいかず、タイトルを変えることにした。ただ、言いたかったことは変わっていない。デジタルコンテンツの配信方法はもっと多様に考えていいと思う。ブロードバンドが世の脚光を浴びて来たので、どうしてもその回線を使ったサービスをメインに考えがちであった。そしてそれは間違いでは無いのだが、デジタルコンテンツの配り方にはもっといろいろと方法があることを忘れてはいけない。

P2Pによる配信はとかく問題視されてきたが、最近の動きを見ると、かなり世間的に認知されてきているように思える。Winyの問題があったり、最近ではShareが摘発されたりしている中で、いろいろなグループによってP2Pによる配信が実用として広まりつつあるようだ。我々アイドックも大手のP2Pベンダーとそれぞれプロジェクトをお話する機会が増えてきている。動画配信のセキュリティというとこれまでストリーミングによる配信をすればいいと言われていたが、ストリーミングによる配信では本当に動画ビジネスが大きくなった時にサーバーや通信インフラが悲鳴を上げてしまう。これまでストリーミング配信が行われていたのも、それだけ市場が限られていたということである。
今後動画ビジネスが本格化するに当たって、ストリーミング以外の方法、プログレッシブダウンロードや本当の意味でのダウンロード配信、またはP2Pによる配信、そしてDVDやUSBやSDなどのメモリーデバイスによる配信など、それぞれの特徴を生かした配信が必要とされている。前回までに述べたように、ブロードバンドは確かに普及したが、それ以上にコンテンツはリッチになって来ている。地デジも始まり、各家庭には大型テレビが当たり前になった。PCでの閲覧だけを考えても、デスクトップ型のPCのモニターも20インチ以上が当たり前だろう。そこで見るコンテンツはどうしても従来とは違った高画質のものでなければユーザーはついてこない。

前回触れた郵送によるDVD配送がここに来てとてもメジャーになっていることも皮肉なことだろう。数年前の予測では2010年には光回線を使ったブロードバンドで各家庭では映画をオンデマンドで見ている筈だった。ところがどっこい、超古典的な配信方法である郵便を使って、これまた古典的なDVDが行ったり来たりしているのだ。アメリカでNetflixが始まった評判になった時にも、日本ではブロードバンドが進んでいるので、そんなサービスは必要なくネットで映画が配信されるとまことしやかに語られていた。という私もその頃はハリウッドで認められたDRMを日本で担いでいたものだ。
何事もこういったもので、だれを責めるものでもないが、デジタルメディアが普及する段階でみんなが予測を誤り、未だに試行錯誤が続いているように見える。
次回からはもう少し違った面からデジタルコンテンツビジネスを語っていきたい。
インターネットとデジタルメディアの関係はいわゆるイタチごっこの状態で推移して来た。インターネットが進化しブロードバンド化すると同時にそれを上回る勢いでデジタルメディアは巨大化して来た。ほんの数年前には300KBPSの動画でもみんなそれなりに興奮して、インターネットがブロードバンドになればこういった高品位のコンテンツを楽しめるようになると思っていた。ところが実際に回線がブロードバンドになったと思うとその時には700KBPSまたは1MBPSを超えるようなリッチな動画に慣れてしまい、もっとブロードバンドにならなければとフラストレーションが溜まって来る。光回線が当たり前になり10−20MBPSの回線が多くの家庭に引かれるようになると、3−4MBPS以上の高解像度またはHDコンテンツが当たり前になり、まだ回線が細いということになる。この関係はどこか妥当なところで落ち着くのだろうが、現状ではまだ高品位コンテンツを気持ちよく配信するにはブロードバンドとは言えない。
さらにこれらの巨大なファイルを配信するためには回線だけでなく、巨大なサーバーを構築運営する必要があり、これらがコンテンツビジネスの足を引っ張っている。Gyaoなども良い例で、動画に広告モデルを適用して素晴らしいビジネスモデルを目指したのだが、実際にはユーザー数が増えれば増えるほど回線とサーバーのコストがうなぎ上りにかさみ、それに伴う広告収入を得ることができずに未だに苦戦を強いられている。
そこで、マルチキャストやP2Pといったセンターサーバーに頼らない仕組みも盛んに導入されているが、これらもユーザー数とコンテンツの巨大化など最適なビジネスモデルを構築できていない。
DRMもこれに絡んでくる。動画を守るために敢て必要のないストリーミング配信をしたりして、ただでさえ不十分なインフラをぎりぎりに使うようなことをしている。しかもストリーミングがDRM的に安全化と言われればそんなことはない。いくらでもストリームをフックするソフトが出回っている。世の中のデジタルコンテンツでストリーミングで配信する必要のあるものは限られている。ニュースまたはスポーツやコンサートのライブ配信ぐらいなものだ。それ以外の90%以上のコンテンツはストリーミング再生をする必要はない。もちろん見たい時に見れるというのがデジタルコンテンツの利点なのでプログレッシブダウンロードのような仕組みは必要だが、ストリミーングではない。
最近DVDレンタルの世界でも面白いことが起きている。アメリカのNetflixのようなDVDを月極で郵送で送り合うシステムだ。最近はDVDレンタル最大手のTsutayaも積極的にこのサービスを行っている。なんと言っても延滞の心配をしなくてもいいのが受けている理由だろう。それと同時にDVDなどは見たい時に見たいと言った欲求もあるが、それほどの切迫感がない場合の方が多いことが原因だろう。ある時あるDVDがどうしても見たくなったら郵送で送ってくるのを待っていることなどできなくて、近くのDVDレンタルショップに駆け込むのだろうが、そんなケースは稀なことだ。自分が見たい映画を自由にリストしておけば順番に送って来てくれるサービスはユーザーの心理をよくとらえたサービスだ。私はLivedoorのぽすれんというサービスを利用しているが、毎回2本づつ送られてくるDVDを月に3往復くらいのペースで楽しんでいる。
本来、理想的なブロードバンドが存在すれば物理的なDVDを郵送しなくてもダウンロードすればいいのだが、DVD二枚で6−8GBのデータをダウンロードするのを待っているよりもなんとなく送られてくるDVDを待っている方が心理的にリラックスできるのだろうと思う。
(この稿さらに続く)